page: | 1 | 2 | |
|
|
|
星出彰彦飛行士 2003[2] |
|
A(会場から):僕は大学の彫刻の非常勤として働いているAといいます。 僕だけじゃないんですけれども、芸術を発想しているときに、 僕はよく酔っぱらったときとかにパッと浮かんだりするんですが、 例えば「きぼう」の中で自分の余暇のときにお酒を飲んだりということは可能なんでしょうか? 星出:たぶん8人の宇宙飛行士の中で一、二を争うお酒好きの私としてはそう願いたいんですけれども、
残念ながらいまは表だってお酒を持ち込むことはできません。 というのも、いまのところ宇宙食をつねに供給しているのはアメリカとロシアなんですね。
さきほど吉冨のほうからラーメンの話がありましたけれども、 あれは「日本としてこれからは食も大事だ」ということで、これから打って出ようとしてるところなんですけれども。
NASAあるいはロシア側のカタログがあるわけですね。 いま NASA側だけで300種類ぐらいの食品があるわけですけれども、その中にお酒は入ってないんですよ。
やはり、これまでは、スペースシャトルの場合ですと、長くても16日間ですからすごく忙しい。 くわえて、行ってすぐ帰ってくるんだから、ということもあるんでしょうが、
お酒はそのリストには入っていない。 酔っぱらって何か壊されると困る(笑)、というのがあります。 井上:それが聞きたかったんです。 星出:ぜひ、芸術分野の実験だということにしていただいて。 どんな発想がわくかということをぜひ実験したい、ということになれば、私、喜んで被験者になります。 よろしくお願いします。 井上:他にどなたでも…。 B(会場から):僕も、彼と同じ彫刻で非常勤として働いているBといいます。 イメージと知識で、宇宙飛行士がたいへんなトレーニングと節制をしていらっしゃるというのは知っているんですけれども、 たとえば僕が、僕の体調とかご存じでないから答えにくいかもしれないですけれども、 一般的に生活している人が宇宙に行こうと思ったときに、 どれぐらいたいへんなことをしないと宇宙へ行けないんでしょうか? 星出:まず、体力とか健康面で言うと、効いてくるのは、ひとつには、打ち上げと帰ってくるときのGですね。
どれぐらいギューと押しつけられるのかという話がひとつ。 それから、宇宙に滞在して帰ってくると、 その期間重力がない状態で、そのままそこに留まっていればかまいませんが、
帰ってこなければならないので、 帰ってきて重力のあるところで立ったり歩いたりっていうことがひとつあるかと思います。 最初のGですが、じつはスペースシャトルは最大でも4Gぐらいなんですね。
4Gっていうと、ジェットコースターと変わらない。 だから、ジェットコースターに乗れれば全然問題ない、というのがひとつ。 それから、行って帰ってきてということになりますけど、
それこそ数ヶ月滞在するということは骨も筋肉も弱ってきますが、 行って1週間ぐらいで帰ってくるということであれば、 それほど大きなインパクトはないんじゃないかと思います。
実際、ご存じかもしれませんけども、向井さんといっしょに飛んだジョン・グレン宇宙飛行士は、当時77歳でした。 彼は、元宇宙飛行士で、もともと数十年前に宇宙に行った人ですから、
体力的にも強靱な体だったというのはありますけれども、そういう形で行ってます。 それから、実業家の方でかなり高齢の方も行ってます。 そういう意味で、実績はあるわけですね。
あと、われわれ職業として宇宙飛行士をやっている人間は、 何かものが壊れたら直さなきゃいけないとか、有事の際にどうすればいいかとか、 そういうことも訓練しなきゃいけない。
それこそ、5年とか10年とか訓練をしなきゃいけない、というのがありますけど。 井上:ほかに、どの様なことでもけっこうです。ご質問とかご感想とか。 星出:何か提案とかあれば、こういう芸術実験をやったらどうかとかあれば、ぜひお伺いしたいと思います。 C(会場から):また質問をしたいんですけど。 単純に有人宇宙飛行、宇宙に行くためだけの飛行というのは達成されたわけですから、 行って何をするかということがすごく重要になると思うんですけれども。 具体的に、いまどのような目的で有人宇宙飛行がなされて、 1日のスケジュール、宇宙飛行士はどのような1日を過ごされたりするんでしょうか。 星出:いま宇宙飛行士が宇宙に行くということは、いちばん大きなプロジェクトとしては国際宇宙ステーションがあります。
国際宇宙ステーションでは、重力がないというかプカプカと浮いている状況を利用した実験ですね。 たとえば材料実験ですとか生物医学、流体力学、そういったいろんな分野の実験研究をするというのがひとつ。
それから、高いところを飛んでいるので、地球を見るのに適しているので地球観測がひとつ。 それから、逆に真空ですから星を見るのに適しているわけですね。
空気にじゃまされないということで、そういった天体観測などもしています。 それ以外に、いわゆるサイエンスの実験というよりかはエンジニアリングよりの実験、
たとえば光通信実験とか、そういった分野にも活用されています。 そういう意味で、主な仕事というのは、実験・観測になるわけですけれでも。 井上:あの、こちらから質問させていただきます。星出さんが宇宙へ上がられる予定は、だいだいもう見えてきてるんでしょうか。 星出:われわれ三名が選ばれたときに、宇宙ステーションが完成したらそのあと乗るんだ、 ということになっていました。 私、選ばれたのが99年で4年前なんですけども、当時5年後ぐらいですかね、という話をしてました。 で、いまどうかというと、いまも5年後です(笑)。 変わってません。 まあ、早くて、という言い方が正しいと思います。 ご存じかと思いますけど、スペースシャトルのコロンビア号の事故が今年の2月1日にありまして、 その関係もあって宇宙ステーション計画自体がちょっと計画の見直しをしているところです。 したがって、いつ完成するかというのは、いまのところわからないということなので、 5年後かなあ、という感じでしょうか。 井上:これまでの日本人宇宙飛行士の方は、ISS国際宇宙ステーションの組み立てとか、 そちらのほうの作業が多いんですけれども、星出さんは最初の長期滞在になるんですよね。 星出:最初かどうかはわかりませんが、基本的には長期滞在を目指して最初から訓練をしています。 いまおっしゃったように、他の宇宙飛行士はまず組み立てをいしなさいというのがあって、 その次に長期行きなさいということになってます。 井上:長期というと、だいたいどれぐらいからになるんでしょう。 星出:いまですと、だいたい4か月から6か月という期間になります。 井上:半年宇宙にいけるかもしれない! 宇宙飛行士の方たちは、ほとんどみなさん、たくさん任務・業務がありますが、 合間を縫ってユニークなことを自分で工夫してなさっておられます。 先輩宇宙飛行士の方々をご覧になって、星出さん自身、こういうイタズラをしたいとか(笑)、 何かお考えとかあれば、やるやらないは別にして、お聞かせいただけないでしょうか。 星出:はい、自由な時間には、もちろん日本酒を持って行って、というのがひとつ(笑)。 井上:ありがとうございました。 ちょうど私たちの研究の中にもいまおっしゃったようなことがあります。
ゲームのルールの創作というのは、すごくクリエイティブなことだと思うんですね。 しかも、個人じゃなくて何人かでいっしょにやるとお互いがクリエイティブになれる。
庭づくりもそうですが、いろんな国の人がいて、いろんなルールがあるじゃないですか。 でも、宇宙に行くと重力がないんで、別のルールを作らないといけない。
ボール遊びもきっとそうだと思うんです。 星出:とくにまだロシアの飛行士とそういう話はしたことはありませんが、 まさにおっしゃるとおりいろんなことをやってるんじゃないかと思います。 NASAの飛行士とかも、話はしてないですけども、 映像とか見るといろいろくだらないというか(笑)、自己満足というか、そういうこともしてますし、 また、若田飛行士と話をしていると、 「こういうことをやってみたら、そりゃ面白いんですよね」というようなことは…。 それこそ、キャッチボールひとつとっても、何かをバットに見立てて野球のまねごとをしてみたりとか、 そんなこともやってますし…。 そういう意味では、いろんなことをやっていると思います。 D(会場から):単純というか、素朴な質問なんですけど、さっきのフトンのプロジェクトとかで、 宇宙の住居環境とかは地上でデザインされたものとかを向こうに持っていって、そこでこういうことが想定される、という形でいろんな話が進んでいると思ったんですが、 さっきフトンを見てすごい狭いフトンだなあと…。 まあ、スペースが狭いというのがもちろんあるんでしょうけど。そこでパッと思った質問なんですが、宇宙でセックスをするとかってことはできるんでしょうか。 星出:どうなんでしょうね。 残念ながら実証した人はいないわけですけれども、すごく大事なことだと思うんですよね。 もし人類が宇宙へ出て行くんだったらば、そういうことも実際どうなんだろうというのは、 必ず突き当たるところだと思うんですよ。 巷でもいろんな本が出ていて、その中でそういう議論をしている本もありますが、 テーマとしては私は大事なことなんじゃないかなと思っています。 ただ、残念ながら現状では、実証はされていません。 吉冨:いままでにNASAの宇宙飛行で夫婦で飛んだのが1組だけいますよね。 星出:もうひと組、当時は結婚されてなかったけど、そのあと結婚したという夫婦がいます。 残念ながら、夫婦で飛んだときはシフトが違ったので 「そういうことはない!」と言い切られました。 吉冨:ただ、いわゆる脊椎動物では、唯一宇宙で子供が生まれたというのは、 日本人の研究者がメダカで実証したというのがあるんですけど、 それ以上のことはやられてないと思います。 星出:もうひとつハードルというか、研究していかなきゃいけないと思うのは、 じっさい例えば妊娠して、となったときの、重力がないことの影響というのがわからないわけですよ。 もちろんメダカの実験である程度「あ、こうなのか」というのはわかりますけど、 「じゃあ、それを人間で」ということになると、倫理的な問題とかいうのが出てきますので、 そういうところでもむずかしいかもしれないですよね。 井上:宇宙で生まれると、地上に帰ってきたときにたいへんな目に遭いそうな気がしますけど。 E(会場から):いままでの話を聞いていて、宇宙で絵を描いてみたいなってすごい思ったんですけど、 もし例えば水で溶いた絵の具とかで紙に描いたとしたら、 ちゃんと絵の具とかって定着したりするんでしょうか。 星出:水彩とか油とかの絵を描いた人はいないんですが、習字をした人はいます。 先輩宇宙飛行士で、若田さんが習字をしています。
彼は、もともと習字をたしなんでいて、「宇宙へ行ったら習字をしたい」という希望があったんですけど。 習字をするには、半紙があって筆があって墨汁が必要なわけで、
半紙と筆はいいとして、墨汁は飛び散っちゃって目に入ったりすると有害なので、ダメなんですね。 「持って行っちゃダメ」と言われてしまいました。 F(会場から):星出さんの、宇宙飛行士になりたいと思ったきっかけと、夢があれば聞かせてください。 星出:きっかけはですね…。 いちばん最初に宇宙飛行士になりたいと思ったのは小学校のときです。
ちょうど父の仕事の関係でアメリカにいまして、 ケネディ宇宙センターに連れて行ってもらったりもしたというのがひとつと、 さきほどスタートレックの話しましたけど、
スタートレックとか見てたり、アニメで宇宙戦艦ヤマトとか銀河鉄道999とか、 そういうのを見て育った世代なので、単純に憧れ、 「あ、かっこいい。宇宙へ行ってみたいな。」っていうのが根底にあります。
D(会場から):いま話されていたことと重複するんですけど、 国際宇宙ステーションが15カ国を中心に作られているという話で、僕、欧米と日本が中心に、 あとそこに産業的に強い国とかが入っているなという印象で見ていたんですけど…。 「みんな」っていうときの、みんなというのがどういうものなのか。それと、さっき松井先生が「誰のものでもない宇宙」という言い方をされてましたが、 その辺、宇宙を誰のものとかいう、そういう所有するしないとかいう話も含めて、どういうお考えをお持ちかを聞かせてもらえますか。 星出:国際宇宙ステーションプロジェクトの15か国というのは、アメリカ・カナダ・ロシア・日本、そしてヨーロッパです。
ヨーロッパというのは、いろんな国が集まっているので、トータルすると15か国ということになります。 さきほど私が申し上げたみんなというのは、人類全体を指してます、私の中では。
ただ、宇宙っていうのは行くことがむずかしいんですよね、いちばん大きなポイントとしては。 いま現在、宇宙に人間を連れて行くことができる宇宙船というのは、アメリカとロシアしか持っていない。
まあ、このあいだ中国が打ち上げましたから、そういう意味では中国が3番目ということになりますが、ほんとに限られた国しか持っていないと…。 もちろん、打ち上げの回数というのもすごく少ないです。いちばん多いアメリカですら年間6機とかその程度なので、それが制約になってくるわけですね。
それを拡げていく、あるいは1回の打ち上げで乗れる人数を増やす、そういった方向に持って行かないとみんなが行けない。 G(会場から):最後にひとつだけ訊きたいんですけども。 さきほど、宇宙飛行士になったきっかけは、ただかっこいいとか憧れとかっておっしゃいましたが、 小さいときに思い描いていたイメージの宇宙と、 いまプロフェッショナルとしての自分の中の宇宙というのは変わりがあるのか、 変わりがあるとしたらどのように変わったのかをお聞きしたいと思います。 星出:宇宙に対するイメージは…。 やはりむかしは絵とかアニメとか画像とかでしか見てなかったわけですよね。 単純に「あ、すごい世界だ」というのはわかってましたけども、その程度でした。 いま実際に、訓練をしたり、ものを作ってる現場に出向いたり、 そういう技術的なむずかしさを実感する場にあります。 そういうところに身を置いているというのがあって、やはり 「そう簡単ではないんだ」というのがひとつあります。 どこの世界でも同じだと思いますが、自動車にしても飛行機にしても、 昔の人がいちばん最初に苦労して作り上げたときっていうのは、 やっぱりかなりの苦労があったと思うんですよね。 それを中に入っていろいろ見ると、それが実感としてわいているので、 そういう意味で宇宙のイメージというのは、遠くなったわけではないですけど、 そこに行くための道のりというのは平坦ではないと、 いろんなチャレンジがあってようやく行けるところなんだというのは、実感としてあります。 宇宙そのもののイメージは昔と変わってないです。 宇宙に対する憧れというものとしては、規模としてあるいは程度問題としては、全く変わってないですね。 井上:予定時間を1時間も過ぎてしまいました。ディスカッションの方は、これでお開きにしたいと思います。 福嶋:もうだいぶ時間も過ぎましたが、報告会だったんで十分とは言えませんが、とても有意義だったと思います。
星出さん、共同研究ぜひともこれからいっしょにやりましょうという意見だったので、われわれも心強く思っています。 やはり、先ほども言いましたように、JAXAもわれわれも共同でアイデアを出し合って、
それを育てていくというのが、大事かなと思います。 芸術のことだけではなく、あらゆる面で協力するというのがいいんじゃないか。 というのは、いちばん最初に話しましたように、地球は自分の故郷だけではなくて、
地球全体はみんなのものだし、宇宙時代が来たからこそ、 はじめて個人のことだけじゃなくて人類全体のことを考えるようになったと思うんですね。 これからも自分を深めていくのと同時に、
全体の、人間そのもののために何かいろんなことやっていきたいし、こういう研究がそのためのきっかけになればとてもいいんじゃないかなと。そういう意味で、とても有意義な会議だったと思いますが、どうでしょう。(拍手) (了) |
▲page top | |
|
|
<< 宇宙飛行士インタビュー index | page: | 1 | 2 | |