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星出彰彦飛行士 2003[2]
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A(会場から):僕は大学の彫刻の非常勤として働いているAといいます。 僕だけじゃないんですけれども、芸術を発想しているときに、 僕はよく酔っぱらったときとかにパッと浮かんだりするんですが、 例えば「きぼう」の中で自分の余暇のときにお酒を飲んだりということは可能なんでしょうか?

星出:たぶん8人の宇宙飛行士の中で一、二を争うお酒好きの私としてはそう願いたいんですけれども、 残念ながらいまは表だってお酒を持ち込むことはできません。 というのも、いまのところ宇宙食をつねに供給しているのはアメリカとロシアなんですね。 さきほど吉冨のほうからラーメンの話がありましたけれども、 あれは「日本としてこれからは食も大事だ」ということで、これから打って出ようとしてるところなんですけれども。 NASAあるいはロシア側のカタログがあるわけですね。 いま NASA側だけで300種類ぐらいの食品があるわけですけれども、その中にお酒は入ってないんですよ。 やはり、これまでは、スペースシャトルの場合ですと、長くても16日間ですからすごく忙しい。 くわえて、行ってすぐ帰ってくるんだから、ということもあるんでしょうが、 お酒はそのリストには入っていない。 酔っぱらって何か壊されると困る(笑)、というのがあります。
個人的な見解ですけれども、やはり、長期にわたるフライトになるわけですよね。 で、たまにはホッとしたいひとときがあるわけですよね。 まあ、ビールなりあればうれしいかな、と思いますが、ビールは残念ながら泡が入ってますから、 先ほどの液体の話じゃないですけれども、泡が出てかないんですよね。 だから、開けてプシュー、シュワーというのがないので、泡だらけの、泡が中に入ったビールを飲んでると…。 くわえて、ちょうどいい温度に冷やしてくれる冷蔵庫がないんですよね。 マイナス80度に冷やしてくれる生物実験用の冷蔵庫はありますが、まあ冷凍庫ですね。 ビール用の冷蔵庫はないので、ぬるい泡だらけのビールを飲むことになってしまうので、ちょっとビールはダメかなと。 個人的には、いま日本酒で粉末の日本酒があると聞いています。 粉末を持ってって水を混ぜて、それを飲んだらどうかなあと。 ここで言ってしまったので、ほんとは秘密にして内緒で持って行こうと思ってたんですけど(笑)。 そういうことはできるんじゃないかなあ、と思ってます。

井上:それが聞きたかったんです。

星出:ぜひ、芸術分野の実験だということにしていただいて。 どんな発想がわくかということをぜひ実験したい、ということになれば、私、喜んで被験者になります。 よろしくお願いします。

井上:他にどなたでも…。

B(会場から):僕も、彼と同じ彫刻で非常勤として働いているBといいます。 イメージと知識で、宇宙飛行士がたいへんなトレーニングと節制をしていらっしゃるというのは知っているんですけれども、 たとえば僕が、僕の体調とかご存じでないから答えにくいかもしれないですけれども、 一般的に生活している人が宇宙に行こうと思ったときに、 どれぐらいたいへんなことをしないと宇宙へ行けないんでしょうか?

星出:まず、体力とか健康面で言うと、効いてくるのは、ひとつには、打ち上げと帰ってくるときのGですね。 どれぐらいギューと押しつけられるのかという話がひとつ。 それから、宇宙に滞在して帰ってくると、 その期間重力がない状態で、そのままそこに留まっていればかまいませんが、 帰ってこなければならないので、 帰ってきて重力のあるところで立ったり歩いたりっていうことがひとつあるかと思います。 最初のGですが、じつはスペースシャトルは最大でも4Gぐらいなんですね。 4Gっていうと、ジェットコースターと変わらない。 だから、ジェットコースターに乗れれば全然問題ない、というのがひとつ。 それから、行って帰ってきてということになりますけど、 それこそ数ヶ月滞在するということは骨も筋肉も弱ってきますが、 行って1週間ぐらいで帰ってくるということであれば、 それほど大きなインパクトはないんじゃないかと思います。 実際、ご存じかもしれませんけども、向井さんといっしょに飛んだジョン・グレン宇宙飛行士は、当時77歳でした。 彼は、元宇宙飛行士で、もともと数十年前に宇宙に行った人ですから、 体力的にも強靱な体だったというのはありますけれども、そういう形で行ってます。 それから、実業家の方でかなり高齢の方も行ってます。 そういう意味で、実績はあるわけですね。 あと、われわれ職業として宇宙飛行士をやっている人間は、 何かものが壊れたら直さなきゃいけないとか、有事の際にどうすればいいかとか、 そういうことも訓練しなきゃいけない。 それこそ、5年とか10年とか訓練をしなきゃいけない、というのがありますけど。
これは個人的な理想というか、将来こうあるべきだ、あってほしいと思っているのは、 1週間2週間の訓練で宇宙に行ける時代が来るんじゃないかと。 それは、職業宇宙飛行士ということではなくて、みなさんが行って帰ってくるだけ、 行って自分の好きなことをやって帰ってくる、ということであれば、 それぐらいで何とかなるんじゃないかと思います。
たとえば、宇宙へ行って大事な訓練、必要最低限の訓練だけやればいいとすると、 何が大事かというと、まずトイレの使い方、 それから食事のとりかた、緊急時の逃げ方とかなんですね。 そうやっておさえていくと、結局いま皆さん飛行機に乗るときって、 乗って救命胴衣の付け方とか、酸素マスクが降りてきたらこうしてくださいとかやりますよね。 ほんと、5分10分ぐらいですよね。 それと同じじゃないかなと。 パイロットはすごい時間かけて訓練してます。 スチュワーデスさんもそうです。 だけども、乗られる乗客の方っていうのは、それぐらいで何とかなる、と思います。 そういう意味で、健康状態とか訓練の時間という意味で言うと、 一般の方が宇宙に行くということについては、これからはもっともっと緩和されるようになるんじゃないかと思います。

井上:ほかに、どの様なことでもけっこうです。ご質問とかご感想とか。

星出:何か提案とかあれば、こういう芸術実験をやったらどうかとかあれば、ぜひお伺いしたいと思います。

C(会場から):また質問をしたいんですけど。 単純に有人宇宙飛行、宇宙に行くためだけの飛行というのは達成されたわけですから、 行って何をするかということがすごく重要になると思うんですけれども。 具体的に、いまどのような目的で有人宇宙飛行がなされて、 1日のスケジュール、宇宙飛行士はどのような1日を過ごされたりするんでしょうか。

星出:いま宇宙飛行士が宇宙に行くということは、いちばん大きなプロジェクトとしては国際宇宙ステーションがあります。 国際宇宙ステーションでは、重力がないというかプカプカと浮いている状況を利用した実験ですね。 たとえば材料実験ですとか生物医学、流体力学、そういったいろんな分野の実験研究をするというのがひとつ。 それから、高いところを飛んでいるので、地球を見るのに適しているので地球観測がひとつ。 それから、逆に真空ですから星を見るのに適しているわけですね。 空気にじゃまされないということで、そういった天体観測などもしています。 それ以外に、いわゆるサイエンスの実験というよりかはエンジニアリングよりの実験、 たとえば光通信実験とか、そういった分野にも活用されています。 そういう意味で、主な仕事というのは、実験・観測になるわけですけれでも。
だいたい1日のスケジュールで行くと、そうですね、1日に8時間寝ることに一応計画上はなっていて、 それ以外に食事の時間とか、お風呂は入れませんが。 さきほどちょっとお話ししようと思ってたんですけど、 シャワーはないのでいまは体を拭くということしかできません。 まあ、体を清潔に保つ時間とか、それから体力トレーニングを毎日1時間やってますね。 その時間を引くと、残りはいちおう仕事の時間ということになりますね。 だいたい、だから1日10時間ちょっとぐらいはそういう実験をしているという感じになると思います。

井上:あの、こちらから質問させていただきます。星出さんが宇宙へ上がられる予定は、だいだいもう見えてきてるんでしょうか。

星出:われわれ三名が選ばれたときに、宇宙ステーションが完成したらそのあと乗るんだ、 ということになっていました。 私、選ばれたのが99年で4年前なんですけども、当時5年後ぐらいですかね、という話をしてました。 で、いまどうかというと、いまも5年後です(笑)。 変わってません。 まあ、早くて、という言い方が正しいと思います。 ご存じかと思いますけど、スペースシャトルのコロンビア号の事故が今年の2月1日にありまして、 その関係もあって宇宙ステーション計画自体がちょっと計画の見直しをしているところです。 したがって、いつ完成するかというのは、いまのところわからないということなので、 5年後かなあ、という感じでしょうか。

井上:これまでの日本人宇宙飛行士の方は、ISS国際宇宙ステーションの組み立てとか、 そちらのほうの作業が多いんですけれども、星出さんは最初の長期滞在になるんですよね。

星出:最初かどうかはわかりませんが、基本的には長期滞在を目指して最初から訓練をしています。 いまおっしゃったように、他の宇宙飛行士はまず組み立てをいしなさいというのがあって、 その次に長期行きなさいということになってます。

井上:長期というと、だいたいどれぐらいからになるんでしょう。

星出:いまですと、だいたい4か月から6か月という期間になります。

井上:半年宇宙にいけるかもしれない! 宇宙飛行士の方たちは、ほとんどみなさん、たくさん任務・業務がありますが、 合間を縫ってユニークなことを自分で工夫してなさっておられます。 先輩宇宙飛行士の方々をご覧になって、星出さん自身、こういうイタズラをしたいとか(笑)、 何かお考えとかあれば、やるやらないは別にして、お聞かせいただけないでしょうか。

星出:はい、自由な時間には、もちろん日本酒を持って行って、というのがひとつ(笑)。
あとは、私大学のときにラグビーをやっていたので、 ラグビーボールを持って行きたいのと、それで遊びたいというのがひとつ。 とくに子供たちとコラボレーションができればなあ、と思っているのが、 ちっちゃなボールを1個持って行って、 「はい、じゃあ、遊びを考えましょう」というのをやりたいと思ってます。 子供のころ、とくに小学校のころって、場所があってボールが1個あったら何かローカルルールで遊びを、 ルールを作りましたよね。 それと同じことが、たぶん宇宙でもできるんじゃないかと。 ただし、われわれのかたい頭では、自由な発想がしにくいんではないか。 そこは、子供たちの力を借りて、 「ここに当たったら何点ってしたらいいんじゃないの」とか、そういうのをやれたらいいかなと。 たとえばビリヤードひとつとっても、地上だと平面ですけど、それが3次元にできたり、 バスケットボールも、高さがないわけですから違う形状のバスケットボールになったりするわけですよね。 そういうのをやってみたいな、というのがあります。
あとは、チェロ奏者の前で言うのもおこがましいんですが、ウクレレをちょっと始めています。 それは、チラシの中で1980円のウクレレを売っていたので衝動買いしただけなんですが。 そういったことも、ちょっとやりたいかなと。 さきほど、アクティブ・パッシブという話をしましたけど、 それはちょっとアクティブなのかなと。 全然弾けないのを、半年もありますし、楽譜を見ながら練習してって うまくなっていく、というのをやってみたらどうかなと思っています。
ほかには、DJ!(笑)。 地上にもよくありますよね、ラジオ番組で。 宇宙ステーションはすごいスピードで飛んでますから、 地上と交信できる時間は限られているんですけど、例えば5分なら5分で週1回宇宙から、 天気予報じゃないですけど、 「宇宙から見ていま京都は雲かかってますね。何か雪降ってるらしいですけど寒いんですか?」 っていう話とか、 地上からのおハガキを読み上げたりとか、 そういう感じでコラボレーションがしていけたら、と思っています。 宇宙だけだとやっぱり限界があると思うんですよね。 だから、できれば…。 先ほど非日常と日常のお話が出てましたけども、 いまはどっちかというと非日常だと思うんですけども、 日常にあるものをいかに持って行けるかというのが、今後大事になっていくんじゃないかと思っています。

井上:ありがとうございました。 ちょうど私たちの研究の中にもいまおっしゃったようなことがあります。 ゲームのルールの創作というのは、すごくクリエイティブなことだと思うんですね。 しかも、個人じゃなくて何人かでいっしょにやるとお互いがクリエイティブになれる。 庭づくりもそうですが、いろんな国の人がいて、いろんなルールがあるじゃないですか。 でも、宇宙に行くと重力がないんで、別のルールを作らないといけない。 ボール遊びもきっとそうだと思うんです。
星出さんは訓練でロシアにも行かれましたよね。 ミールなどで長期滞在したら、きっと人間であれば、 そういうゲームの創作とかというのは自然発生しているんじゃないかと思うんですが、 その辺り何かご存じないでしょうか?

星出:とくにまだロシアの飛行士とそういう話はしたことはありませんが、 まさにおっしゃるとおりいろんなことをやってるんじゃないかと思います。 NASAの飛行士とかも、話はしてないですけども、 映像とか見るといろいろくだらないというか(笑)、自己満足というか、そういうこともしてますし、 また、若田飛行士と話をしていると、 「こういうことをやってみたら、そりゃ面白いんですよね」というようなことは…。 それこそ、キャッチボールひとつとっても、何かをバットに見立てて野球のまねごとをしてみたりとか、 そんなこともやってますし…。 そういう意味では、いろんなことをやっていると思います。

D(会場から):単純というか、素朴な質問なんですけど、さっきのフトンのプロジェクトとかで、 宇宙の住居環境とかは地上でデザインされたものとかを向こうに持っていって、そこでこういうことが想定される、という形でいろんな話が進んでいると思ったんですが、 さっきフトンを見てすごい狭いフトンだなあと…。 まあ、スペースが狭いというのがもちろんあるんでしょうけど。そこでパッと思った質問なんですが、宇宙でセックスをするとかってことはできるんでしょうか。

星出:どうなんでしょうね。 残念ながら実証した人はいないわけですけれども、すごく大事なことだと思うんですよね。 もし人類が宇宙へ出て行くんだったらば、そういうことも実際どうなんだろうというのは、 必ず突き当たるところだと思うんですよ。 巷でもいろんな本が出ていて、その中でそういう議論をしている本もありますが、 テーマとしては私は大事なことなんじゃないかなと思っています。 ただ、残念ながら現状では、実証はされていません。

吉冨:いままでにNASAの宇宙飛行で夫婦で飛んだのが1組だけいますよね。

星出:もうひと組、当時は結婚されてなかったけど、そのあと結婚したという夫婦がいます。 残念ながら、夫婦で飛んだときはシフトが違ったので 「そういうことはない!」と言い切られました。

吉冨:ただ、いわゆる脊椎動物では、唯一宇宙で子供が生まれたというのは、 日本人の研究者がメダカで実証したというのがあるんですけど、 それ以上のことはやられてないと思います。

星出:もうひとつハードルというか、研究していかなきゃいけないと思うのは、 じっさい例えば妊娠して、となったときの、重力がないことの影響というのがわからないわけですよ。 もちろんメダカの実験である程度「あ、こうなのか」というのはわかりますけど、 「じゃあ、それを人間で」ということになると、倫理的な問題とかいうのが出てきますので、 そういうところでもむずかしいかもしれないですよね。

井上:宇宙で生まれると、地上に帰ってきたときにたいへんな目に遭いそうな気がしますけど。

E(会場から):いままでの話を聞いていて、宇宙で絵を描いてみたいなってすごい思ったんですけど、 もし例えば水で溶いた絵の具とかで紙に描いたとしたら、 ちゃんと絵の具とかって定着したりするんでしょうか。

星出:水彩とか油とかの絵を描いた人はいないんですが、習字をした人はいます。 先輩宇宙飛行士で、若田さんが習字をしています。 彼は、もともと習字をたしなんでいて、「宇宙へ行ったら習字をしたい」という希望があったんですけど。 習字をするには、半紙があって筆があって墨汁が必要なわけで、 半紙と筆はいいとして、墨汁は飛び散っちゃって目に入ったりすると有害なので、ダメなんですね。 「持って行っちゃダメ」と言われてしまいました。
で、彼は工夫をして、結局どうしたかというと、 コーヒーを墨汁に見立てて、濃いめのコーヒーを作ってそれをこう筆にしみ込ませて、 それで書いてます。
じっさい書いたものというのは、地上に持ってきて、いろんなところで展示もさせていただいています。 そういう意味で、可能性はあると思いますし、 ただ問題になってくるのは有害無害というところでしょうか。
もうひとつ言わせていただくと、土井宇宙飛行士がクレヨンで絵は描いているんですよ。 このときもやはりクレヨンの材質というのがすごく問題になって、 「安全なのか。飛び散って誰かの口の中に入って、腹こわしたりしたらたまらん」 ということでいろいろ調べた結果、 子供向けの食べても安全なクレヨン、これは植物とかから作っているというものでして、大豆とかかな、 で作ってるものがあったんですが。 はい、そうですね。ここに、今日のパンフレットのいちばん上に絵がありますが、 これがまさに土井さんが描いたやつなんです。 そういった形で、工夫さえすれば、いろんな手はあるのかな、と思います。

F(会場から):星出さんの、宇宙飛行士になりたいと思ったきっかけと、夢があれば聞かせてください。

星出:きっかけはですね…。 いちばん最初に宇宙飛行士になりたいと思ったのは小学校のときです。 ちょうど父の仕事の関係でアメリカにいまして、 ケネディ宇宙センターに連れて行ってもらったりもしたというのがひとつと、 さきほどスタートレックの話しましたけど、 スタートレックとか見てたり、アニメで宇宙戦艦ヤマトとか銀河鉄道999とか、 そういうのを見て育った世代なので、単純に憧れ、 「あ、かっこいい。宇宙へ行ってみたいな。」っていうのが根底にあります。
そのうち、高校のときになって、最初の毛利さん・向井さん・土井さんの3人の宇宙飛行士が選ばれたあとに、 「あ、日本人宇宙飛行士が誕生するんだ。 でも、たぶん日本の宇宙開発の状況を考えると1回で終わりだ」と思ってたんですけど、 しばらくして新聞のちっちゃい記事で宇宙開発事業団として2期生を募集する考えがあると…。 計画じゃないです、まだ。 考えがあるという話を見まして、 「あ、これ、宇宙飛行士を職業として目指してもいいんだ」って思って、 そこから頭の片隅につねに置いてきました。
夢っていうと…。ちょっと戻りますけど、 私、じつは宇宙飛行士の選抜で2回落ちてるんですね。2回落ちて3回目で受かってるんですけれども、 やはりずっと持ち続けている夢というのは、宇宙に行って、僕は地球を見たいのはありますが、 逆に星を見たいとずっと思ってました。 宇宙から見た星ってどうなんだろう、どんなにきれいなんだろう、 大気でじゃまされていない星ってどうなんだろう、というのがあって…。 土井宇宙飛行士に言わせると 「いや、おんなじだよ」、「瞬かないけど、同じぐらいだよ」って。 ま、彼は天文の世界の人間なので、彼の知っている世界観というか、とまた違うのかもしれないですけどね。 星を見たいな、というのがありますね。
それと同時に、これはちょっと偉そうなことを言いますが、 みんなが宇宙にいける時代を作り上げたいと。 そのために、いま自分たち宇宙飛行士がいるんじゃないかなと思っています。 JAXAのみならず、世界の宇宙機関で「有人飛行、有人飛行」って偉そうに言ってますが、 たかだか世界中に200人程度しか宇宙を経験した宇宙飛行士がいない時代というのは、有人飛行やってないと思うんですよ。 みんなが宇宙に行けて、はじめて有人活動なんじゃないかなと…。
吉冨さんを目の前にして何ですけど、JAXAの中で「こういう研究を」というのは、われわれが考える…。 あるいは、ようやくそこのバリアを取っ払って、 芸術の世界でもじつは可能性があるんじゃないかということで、こういう活動をし始めたわけです。それまでは「実験、実験」だけだったんですよね。 だけども、きっと人文芸術の世界でも可能性はあるだろうし、 あるいはそれ以外の分野、われわれが想像もつかないような世界で、 じつは宇宙に行ったらこんなことができるんじゃないかなという可能性が広がると思うんですよね。 ただ、それはわれわれだけが行ってたら起こらないことなので、僕たちがやるべきことは、 みんなが宇宙に行けるためのインフラ作りだったり、システム作りだったり、 さきほど訓練の時間を2週間で何とかという話をしましたが、 そういうことをすることによって、ほんとにみんなが 「ちょっと行ってくる」って行って、 それで地球を見てみたら心境の変化があったとか、 自分がやりたいことをちょっとやってみたら 「あ、こういうことになるんだ。じゃ、次はこういうことやってみよう」とか、 そういう可能性が広がると思うんですよね。 なので、個人的には、みんなが宇宙に行ける時代を作りあげていきたいと思っています。

D(会場から):いま話されていたことと重複するんですけど、 国際宇宙ステーションが15カ国を中心に作られているという話で、僕、欧米と日本が中心に、 あとそこに産業的に強い国とかが入っているなという印象で見ていたんですけど…。 「みんな」っていうときの、みんなというのがどういうものなのか。それと、さっき松井先生が「誰のものでもない宇宙」という言い方をされてましたが、 その辺、宇宙を誰のものとかいう、そういう所有するしないとかいう話も含めて、どういうお考えをお持ちかを聞かせてもらえますか。

星出:国際宇宙ステーションプロジェクトの15か国というのは、アメリカ・カナダ・ロシア・日本、そしてヨーロッパです。 ヨーロッパというのは、いろんな国が集まっているので、トータルすると15か国ということになります。 さきほど私が申し上げたみんなというのは、人類全体を指してます、私の中では。 ただ、宇宙っていうのは行くことがむずかしいんですよね、いちばん大きなポイントとしては。 いま現在、宇宙に人間を連れて行くことができる宇宙船というのは、アメリカとロシアしか持っていない。 まあ、このあいだ中国が打ち上げましたから、そういう意味では中国が3番目ということになりますが、ほんとに限られた国しか持っていないと…。 もちろん、打ち上げの回数というのもすごく少ないです。いちばん多いアメリカですら年間6機とかその程度なので、それが制約になってくるわけですね。 それを拡げていく、あるいは1回の打ち上げで乗れる人数を増やす、そういった方向に持って行かないとみんなが行けない。
あと、お金の問題がありまして、一般の方が行くときには、 例えばさきほどお話しした、ロシア側で飛んだ実業家の方は二十数億円払って行ってるんですよね。 皆さん行けますからっていって二十数億円払える人がどれだけいるんじゃい、という世界なので、 そういったコストも下げていかなきゃいけない。 だけども、そうやって下げていけば、どんどん行ける人っていうのは増えていくだろう。 行く行かないは個人の自由なので、絶対行かなきゃダメですというものではありません。われわれとしては、誰のものでもない宇宙という、どこかの国に所属しているものではなくて、 実際に行きたい人には行くチャンスが与えられるというか、チャンスができるように、 そういうインフラを将来的には提供できればいいんじゃないかな、と思います。 それは、例えばわれわれの組織がそういうことできるかというと、 ちょっとむずかしいのかもしれないですけども、 少なくともそういうシステム作りっていうものに何らかの形で貢献はできると思っています。

G(会場から):最後にひとつだけ訊きたいんですけども。 さきほど、宇宙飛行士になったきっかけは、ただかっこいいとか憧れとかっておっしゃいましたが、 小さいときに思い描いていたイメージの宇宙と、 いまプロフェッショナルとしての自分の中の宇宙というのは変わりがあるのか、 変わりがあるとしたらどのように変わったのかをお聞きしたいと思います。

星出:宇宙に対するイメージは…。 やはりむかしは絵とかアニメとか画像とかでしか見てなかったわけですよね。 単純に「あ、すごい世界だ」というのはわかってましたけども、その程度でした。 いま実際に、訓練をしたり、ものを作ってる現場に出向いたり、 そういう技術的なむずかしさを実感する場にあります。 そういうところに身を置いているというのがあって、やはり 「そう簡単ではないんだ」というのがひとつあります。 どこの世界でも同じだと思いますが、自動車にしても飛行機にしても、 昔の人がいちばん最初に苦労して作り上げたときっていうのは、 やっぱりかなりの苦労があったと思うんですよね。 それを中に入っていろいろ見ると、それが実感としてわいているので、 そういう意味で宇宙のイメージというのは、遠くなったわけではないですけど、 そこに行くための道のりというのは平坦ではないと、 いろんなチャレンジがあってようやく行けるところなんだというのは、実感としてあります。 宇宙そのもののイメージは昔と変わってないです。 宇宙に対する憧れというものとしては、規模としてあるいは程度問題としては、全く変わってないですね。

井上:予定時間を1時間も過ぎてしまいました。ディスカッションの方は、これでお開きにしたいと思います。
最後に、福嶋先生、研究代表の立場から今日のまとめの言葉をお願いします。

福嶋:もうだいぶ時間も過ぎましたが、報告会だったんで十分とは言えませんが、とても有意義だったと思います。 星出さん、共同研究ぜひともこれからいっしょにやりましょうという意見だったので、われわれも心強く思っています。 やはり、先ほども言いましたように、JAXAもわれわれも共同でアイデアを出し合って、 それを育てていくというのが、大事かなと思います。 芸術のことだけではなく、あらゆる面で協力するというのがいいんじゃないか。 というのは、いちばん最初に話しましたように、地球は自分の故郷だけではなくて、 地球全体はみんなのものだし、宇宙時代が来たからこそ、 はじめて個人のことだけじゃなくて人類全体のことを考えるようになったと思うんですね。 これからも自分を深めていくのと同時に、 全体の、人間そのもののために何かいろんなことやっていきたいし、こういう研究がそのためのきっかけになればとてもいいんじゃないかなと。そういう意味で、とても有意義な会議だったと思いますが、どうでしょう。(拍手)
JAXAの清水さん、吉冨さん、星出さん、荒木さん、浜田さん、どうも遠いところをありがとうございました。(拍手)

(了)

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