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ヒューストン・インタビュー[2]
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向井:自然観っていうのが何なんだろう、と考えると面白いですよね。ここで言う自然っていうのは、特殊環境下で起こっている自然だから。例えばまず空気があるとか、風が吹くとか、雨が上から下に降るとか、雲があったりとか、そういうのも全部特殊な環境での自然観ですよね。ゆくゆく本当に宇宙に住むようになると、宇宙での自然観っていうのがどういうものになるのか、ちょっとよくわからないですね。
あと例えば、もともと日本人の持っている自然観っていうのは、マイルドな自然の中で生きているから、自然は楽しむものですが、ここ(ヒューストン)だと、こっちの人は自然とは闘うものだと考えている。自然観っていうのは、たぶん国によってもずいぶん違ってきます。よく日本とイギリスの自然観というのは、似ていると言われます。島国だから。たしかに、自然観を表現するといっても、われわれがいう自然観と、自然を征服しながら生きていく民族の自然観というのはすでに違うんでしょうね。その辺は私もよくわからないんですけど。

福嶋:そうですね。そういうことが象徴的に出ているものとして、僕らがよく話しているのは、ガーデン=庭という概念ですね。世界中に庭という言葉があって、言われたように日本のような四季が移り変わるマイルドな環境の中の庭もあれば、砂漠地帯の環境の中にも庭がある。人によって見えるものも環境も、庭そのものの大きさも形態も違う。でも、庭という言葉は世界にある。それぞれにたいがいは憩いの場。それは一体どんな関わり合いをしているのか。庭というのは、一番そういう精神的な部分を、人間が文化的に作り上げた、形象化した一つの表れ、象徴的なものだと思うんですね。そこに人間の共通部分があるんじゃないかな。そういうものを探りたいというか。

向井:共通のものを探るというのは、結局、真実を探っていくという形でしょう。それを芸術家の人たちは求めているんですか?

松井:これは野口さんにお話したことなんですけれども、例えば、民族や文化、時代によって庭の様式、考え方はさまざまにある。だけど、宇宙っていうものを視野に入れると、地球にある庭っていうものは、重力があることが当り前として作られたという見方ができる。国とか民族とか様式の違いはあっても、その周りを人間が歩いて回るとか、多少立体的になっても、基本的にはそういう形の庭である。共通の、地球にある庭というのが想定できる。ところが、宇宙で、グラヴィティがないところでそれができるかどうか。例えば「きぼう」の中で一つやりたいプロジェクトは、庭を造る。みんなが育てながら、いろんな国籍の人が話し合いながら庭を造ると。そういうことをやると、大きさはいろいろですけれど、ぐるぐると、上を囲むようにしてある自然を対象にする庭ではなくて、例えばこんな小さいものでも、人間が庭の周りをくるくる回ったり、人間が庭の中を通ったり、そういう新しい庭の概念みたいのができる。そういうものが象徴的に形になって宇宙にでき上がると、逆に今度は地球でやっていた庭というものが特別なものとして、重力があるから特別なものとして見える。そういう直観、それを僕たちは宇宙に関する「直観的理解」という言い方するんです。食べ物でもいいんですが、何かオブジェクトに置きかえることによって、地球というものが特別に見えるような視点を提示すること、芸術がそういう役割を果たせないか。それによって、人類が抱えているさまざまな問題に対する一つの答えを出す、そういうことができる研究をしたいなと。

向井:絶対できると思います。この地球ってすごい特殊な場所ですもの。マジョリティ、多くの人がここに住んでいるから、みんなこの生活が当り前だと思っているけれども、多くの宇宙から考えたら、地球って特殊環境ですから。ほとんどの宇宙っていうのは、こんなすごい環境ではないわけですよ。
そういう意味だと、やっぱり、私の小さい頃や子供を見ると、子供って雨が降るのを見て喜んでいる。カーテンが風でゆらゆら動いているのを見ても不思議に思って、何で動いているんだろうと思ってずっと見ている。小さい頃に面白くて仕方なかったものが、大きくなると失ってしまうものってある。当り前に見えるものってつまらなくなって、そのことに興味を持たなくなる。疑問すら持たなくなっちゃう。そういう忘れてしまったものをもう一回見たような、何やっても面白いというのが、私が初めてKC-135で飛んだときにありましたね。
それと同じように、私が一番面白かったのは、宇宙飛行自体より、宇宙から帰ってきてここで起こっている特殊なことを見たことの方なんですよ。なぜかというと、自分が期待せずに帰ってきているから。宇宙で物が浮かぶとか、宇宙から地球がきれいに見えるというのは、期待して行ってるから、それは面白くても、自分の期待度がこのくらいだと、そのデルタ=差分というのが小さければ、うわー驚いた、とならないんですね。ところが、こういう当り前だと思っていた世界、不思議じゃないと思って帰ってきたところ、ものすごい重力がある。物がこういうところに置いてあるのも不思議、物がものすごい速さで落ちるのも不思議。そういうのを見たときに、そういうことに自分が驚くと思って帰ってきてないから、その驚きは、本当にびっくり。えーこんなすごい特殊なところだったんだ、という。それで先生さっきおっしゃったように、何を落としても可笑しいし――。

井上:今、向井さんが言われたようなことが、文字通り、芸術のたぶん目的だし出発点だと思う。

向井:先生も行ったほうがいいですね、絶対。

井上:本当に(笑)。つまり、もっと簡単に言うと、当り前のものが面白くなる――面白くするということが、やっぱり芸術では大事だと。芸術について一般的に通用している考え方だと、特別なものを特別にするというか、そのための技術とかいう形でしか理解されてませんね。でも本来そうでなくて、今言われたような、ものすごく原初的な、地上の大自然との最初の触れ合いみたいものをもういっぺんそのつど蘇らせる。その触れ合いは日常生活を送る中ではいつも風化していくんですが、たえずそれを蘇らせていくということが、芸術の大事な機能だと思うんですよ。

向井:そうでしょうね。私なんか凡人は、何か見ると全然面白くない、当り前だと思っちゃうんだけど、たぶん芸術家の人っていうのは、そこの中にきっと普通私たちが見えていない面白さが見つけるんですよね、きっと。そうなんだなーと思って(笑)、私なりに芸術家とは何だろうというのを理解しようとしているんですけど。感性が強いことなんだと思うんですよね。

野村:ものすごい具体的な話になるんですけど、僕らが一番気になっているのは、宇宙飛行士の人しか見たことがないものがあるということを本で読んだんです。すごく気になっているのは、宇宙放射線が刺激をして、光ったものが網膜を通さないで見えるというのがありますよね。あれっていうのは、今までお話で聞いているだけで、実際どういうものなのか、一度も僕らは知らないんですよ。何とかそれを、クレヨンか何かで描いていただけないでしょうか?例えば、宇宙線だから上から来るのか下から来るのか、いろいろなところから来ますよね。その方向がわかるのかどうか。わかります?

四人:わからない。

野村:わからない。それじゃ、光ると聞いているので光ると思ってるんですけど、それがどういうものかわからないんです。それって、頭ガンと叩いたときに目から火が出たと言われますが、そういうものなんでしょうか。実際に宇宙飛行士の方はそれが見えてるんですよね、視神経を刺激されるから。何とか、それが本当に僕らにサジェスチョンを与えるようなものでいいから、この台紙に何か描いていただけないかと。

向井:私はよく漫画で、ぶつけて火花がチカチカしている、あれってやっぱりすごいイマジネーションがあって。結局、見えているものってあんなものじゃなかった?(笑)あんなもんですよ。

野村:土井さんが行かれたときに、実は絵を描かれましたよね。丸を描いていただきましたよね。だから僕らは、絵が描けるんだと信じ込んでいるんです。いかに努力して描いていたのかはちょっと不明なんですが。

土井:あれは確かに、同じ感じでしたね。

野村:だからそれが、例えば光るんだけど、縁はちょっとピンク色して光るのかな、とか。いや、もしかしたら、もう少し違う色が縁取られるとか、真ん中と周囲がちょっと違うんじゃないか、とか。

向井:完全に白色。

若田:私も白だったと思いますよ。だから何にもない水面に石が落ちたときに、ポチャッと広がるような感じ。

向井:パチッとはじける感じ。

野村:それって、描いてもらえません?(笑)

向井:私なんか本当に、漫画の星型がチカチカと。

野村:この黒ベースに白。

向井:白い光なんですよ、白色光。

若田:私、子供の頃、自転車で転んで、初めて頭の周りを星が回るのを見たときのあの感激っていうのはまだ覚えてますけど。ああ、本当に漫画通りだと思いましたけど。あれほど、刺激的な光じゃないですね。

向井:痛くなかった?(笑)

若田:いやいや、僕は本当に星が回っているのを見て、ああ、本当だったんだ!と(笑)。

土井:今になるとよく覚えてないんですけど、僕はすごく明るかったですね。

向井:すごく明るいですよ。

土井:若田さんは、それほど明るく感じなかったんだね。

若田:そんなに明るいのはなかったですよ。

土井:すごく明るくて、すぐわかりますよ。

若田:すぐわかりますけど。

向井:ちょうど理科実験で、パラシウムとか、発火させるときに――そう、マグネシウム。ナトリウムだとちょっと赤くオレンジ色っぽくなりますよね。あれの白色光で輝度の高い色。

若田:マグネシウムの色ですよね。

野村:縁はギザギザだと思いました?

向井:縁はギザギザというほど大きくないんですよね。ものすごく小さい。

福嶋:野村君、向井画伯に絵を(笑)。

向井:こんなもんですよ。こういう感じ。

野村:パチッて感じ?

向井:いや、そんなパチパチ頻度高くないですから。パチッとなったら、しばらく経たないと次のが来ない。

野村:誰も見たことないんで。

若田:あんまり、刺激的じゃないんですよ。

土井:僕はもっと全面だったけどなぁ。

若田:だから僕が言ったのは、石を水面に落としたときにぱっと広がるような――

土井:若田さんが言っているのは、自分の視野の中の――

向井:自分の頭の中の、黒い視野の中で、パチッと本当に、一瞬音がパチッと出るような感じの色ですよ。よく、線香花火じゃない――何というのかな――白色の、金属を溶接している人たちなんかが火花飛ばしていますよね。あのときに出ている、白色のパチッていう感じでしたね、私の場合は。

野村:残像ってどのくらい残るんですか。

向井:残像は残らないくらいですね。

若田:一秒かからないですね。

向井:かからない。本当に一瞬パチッていう。形が描けるっていうものじゃないですよ。形がギザギザで周りがピンク、なんてそんなのないよね。

若田:まさに本当、これなんです。こんな感じ。

土井:色はあったかもしれない感じはするけど、覚えてないですね、今となると。

野村:やっぱりベースとしては真黒でした?

向井:ベースは目をつぶったときの色ですね。まわりが明るければ、やっぱり明るい色になっている。要するに、目をつぶったときの後ろの網膜が反映する色だから。暗い中で目をつぶったときと、こういうライトが点いた部屋の中目をつぶったときと違うのと同じです。

若田:だけど、明るいときに通っていても気が付いていないというのがあると思います。夜寝る前に、眠りにつく前に、特にアルゼンチンの西側、高緯度の所を通ると、その辺が結構放射線がいっぱいくるんですよね。「サウスアトランティック・アノマリー」(南大西洋異常地域)っていうんですが、その辺をちょうど寝る頃の時間に目をつぶったときに通ると、そういうのが結構何回かありましたね。

向井:私は作業中にもあったよ。

若田:起きてて?

野口:寝てたんじゃない?(爆笑)

向井:作業中に、目を開けていてもパチッていう感じのやつがあって、ああこれだというのがあった。

若田:そうか。向井さん、二回目のフライトの軌道高度はかなり高かったから、結構多かったんだと思いますよ。

野村:そんなに頻繁なんですか。

向井:フライトの軌道と高さによって違うんですよ。角度も問題で。それにたまたまパチッとなっても、放射線が視神経を通らないとわからないんです。体にボコボコ穴が空くみたいに通過しているかもしれないけど、視神経を通ってないと。だから、そんなにしょっちゅうチカチカ見てたってほど多くはないですね。

野村:宇宙飛行士の方どうしであれば、だいたい個人差なく、同じようなものを見ているんですか。

向井:こんな感じだったよねっていうのはそうですね。

野村:土井さんの経験はちょっと違うんですね。

土井:僕は寝ているときに、個室の中に入っていたので、全く暗くなるんですよ。目をつぶると真っ暗なわけですね。そこで目をつぶっていて見たのは、視野全体がパッと明るくなりましたね。一部じゃなかった。

若田:パッと広がる感じですけど、なんか本当、貫通しているっていう感じで。

土井:そうそう、広がる感じ。シャワーっていうか、パーッと明るくなって、すーっと消えて行く。

若田:あの、花火がものすごい速さでパッと開いておしまい、みたいな感じなんですよね。

向井:それは粒子のエネルギーがどのくらいかによってちがうんですよ。たぶん土井さんの場合は、エネルギーがそこで止まっちゃって、そこのところでディスチャージされる割合が大きいと、範囲が広くなると思うんですよね。

野村:それってもう、頭全体が白くなる感じ?

土井:白くなりますね。

野村:この台紙は一応、頭全体です(笑)。だから四角よりも楕円の方がいいんじゃないかと思って、楕円に切ってみたんですけど。

若田:でも片目ですよね、当たっているときというのは必ず。

野村:片目?

若田:ええ、だって両方一緒には当たらないですよ。だからやっぱりなんとなく片側に寄ってる、いや、それはおかしいな、でも真ん中じゃなかった気がする。

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