<< 報告書目次 宇宙への芸術的アプローチ『1997年度研究報告書』-4

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2.STS-87芸術ミッションの提案と実施内容の検討(続)

2.5 STS-87船内ステータスレポートのシナリオ案

先の基礎実験の提案に引き続いて、NASDAより、芸術ミッションとは別枠で予定されているテレビ放映用の船内ステータスレポートのシナリオ作成の依頼を受けた。対象は、全5回予定されているうちの第5回目「芸術とスポーツ」の項目であった。 提案したシナリオは以下の通りである。

[1]留意点

(1)すでに提案した芸術ミッションと内容的なつながりをもたせ、放映以前に自由時間を利用して準備や試作・制作を進め、放映時に公開とプレゼンを行うというかたちを取る。
(2)視覚に訴える色とかたちを生かし、微小重力下の宇宙環境や船外の宇宙空間を視聴者が実感できるようなプレゼンテーションが望ましい。
(3)南天の星をスケッチするという、土井飛行士の意向を最大限優先させ、以下の提案の選択と実行は、あくまで土井氏の自発的な意志に委ねる。

[2]提案

A.天上のスケッチ

B.紙による造形:微小重力空間の視覚化

C.立体絵画

D.型取り

E.俳句を詠む


A.天上のスケッチ

(1)土井飛行士の望むままに、シャトルから見える星や星座を自由にスケッチする。

(2)シャトル内の光景や事物、同僚の顔や仕事ぶり、船外に見える宇宙や地球の光景など、気に入ったものを自由にスケッチする。

*できれば色鉛筆だけでなくクレヨンも使ってカラフルに描く。放映時間の前に描いておいてもよいが、改めてカメラの前で描いて見せるのも視聴者の大きな関心を呼ぶだろう。

(3)描いたスケッチを見せながら、以下の点ほかについて、体験にもとづく率直な感想を述べる。

・宇宙でのものの見え方や空間意識の変化
・描くことによる心理状態の変化
・宇宙での表現活動の意義

上記のスケッチを行うに当たっては、以下の点に留意してほしい。
(1)条件設定

・体を固定した状態でのスケッチ
・体を浮遊させながらのスケッチ

(2)スケッチを行う上で意識してほしいポイント

・条件設定の違いによって、描きたい対象に変化はあるか。
・特に体を浮遊させながらのスケッチの場合、地上でのスケッチのような空間意識で対応可能なのか。
・視野、視界の形をイメージすると、スケッチブックは四角いが違和感はないか。どんな形のスケッチブックが適当だと思ったか。
・浮遊しているために把握しにくい対象や光景をどうとらえ、画面に表そうとするか。ある種の座標空間を想定するのか。

⇒実現

B.紙による造形:微小重力空間の視覚化

FDF用紙を用い、簡単な加工をほどこすことによって、微小重力空間のもつ未知の造形的可能性を視聴者に伝えることができる。

以下のようにさまざまな方法が考えられる。

B-1.七夕飾り

(1)紙の裏表に自由に色を塗ったり、グラデーションなどで模様を描く。
(2)その紙を横に複数枚つなげ、大きくしたものを用意しておく。
(3)放射状に折り畳んで、七夕飾り風に細かく切れ目を入れる。
(4)それらを引き伸ばして大きく広げ、自由な形にして空中に浮かしながら、地上とは異質なそれらの見え方を語る。

*軽く折り畳んで切り、手をはなす(あるいは軽くゆする)と、紙の弾性により自然にゆっくりと開いて広がってゆくようなことができると思われる。
*注:ハサミ、または代替品の利用が望ましい。手で破ってもよい。紙にはFDF用紙以外の薄いものが転用できるとなおよい。
*切れ目の入れ方は、さまざまな工夫が可能である。紙の外側から中心に向かって螺旋状にとぎれないよう切っていってもよい。
*紙の造形は、星の存在、宇宙の構成を説明する際に利用することもできる。

B-2.色つきカードから

(1)約10cm四方の紙を何枚か用意しておく(FDFは6つに切ると10.8cm x 9.3cm )
(2)それぞれ裏と表を自由な色で塗りつぶし、手でさまざまな変形を加える(例えば、折る、破る、丸める、ねじるなど)。できれば一枚ごとに日を変えて、その日その日の印象を色とかたちで記録するつもりで制作しておく。
(3)放映時にそれらを身のまわりに浮かせながら、それを作ったときの気分を語る。

B-3.紙トンボ/紙コプター

(1)自由に色を塗った紙を用意しておく。
(2)切れ目を入れたり折ったりして、回転飛行するかたちを作り、空中をカメラに向かって飛行させる。かたちとしては、竹トンボのようなもの、ヒレのついた円盤のようなものなどが考えられる。

C.立体絵画

シャトルから見える美しい光景を球体(地球)、リング(オーロラ)、細い曲面(大気、虹)等の要素を用いて立体的に表現し、手に持ったり、浮かせたりしながら、土井さんが見届けた貴重な体験について語ってもらう。以下の様子はTV映りも効果的になることが充分に期待できる。

(1)サッカーボール状の球体を地球に見立て、五角形と六角形の各々の面を球状につなげる。
(2)それぞれの面(五角形、六角形)には、海、雲等の色彩(ブルー等)をほどこしておく。
(3)漆黒の宇宙を背景に出現する朝やけと夕やけの美しい大気の層を塗り分ける。その細い曲面をサッカーボール状の球体にテープ等で接着する。
(4)極方面にオーロラが見られるなら、リング状の紙にオーロラの色彩を施し、その美しい光景について語りながら、球体の極地方に接合する。
(5)宇宙から虹がどのように見えるのか、色と形で表しながら示してもらう。
(6)「シャトルの切抜き」等で、地球上約300kmがどれくらいかを球体との位置関係で示す。

*(1)〜(6)の各項はあらかじめ準備をしておくことが望ましい。

D.型取り

身体や宇宙服も含めて、身の回りのものを表現手段にすることができる。こうした「転用」は、船内の事物や空間を遊び心のある新しい視点で見直すことにもつながるだろう。例えば、

(1)土井飛行士の手形や足形を紙に押す、あるいは輪郭を色鉛筆やクレヨンでトレースする。
(2)宇宙服の一部である手袋や靴などを紙に押し、あるいは輪郭を色鉛筆やクレヨンでトレースし、人間を守るための用具を実感させる。
(3)型をつけるにあたっては、コーヒーなどをつけて行ってもらってもよい。紙への付着の度合いなども研究できると思われる。

E.俳句を詠む

描画とは異なるが、以下の行為も提案したい。船外活動のあと、船内に戻ってから、俳句を詠む。色紙か短冊を前もって作っておく。筆記用具は自由。

*俳句は、世界に広く知られた日本が誇る芸術であり、いわば言語による感動のスナップ写真である。日本の宇宙飛行士による最初の芸術的行為として意味深い。
*旅先など、日常とは異なった場所へ赴いたとき、その現場で詩をつくるという伝統が宇宙で生きる。
*文字の中に、微少重力で揺れた手の動きなども記録される。
*できれば英訳して、放送を通じて世界に向けて発信する。
*実行できるかどうかは、もちろん土井飛行士の意志しだいである。

 

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