『モダニズムの越境』 刊行


Where Modernists Dare to Tread :
Transgressions of Modernism

ed. by Modernism Research Society


 

『モダニズムの越境』



『モダニズムの越境』
モダニズム研究会編
人文書院、2002年刊
定価5800円(+税)
三分冊、箱入り、分売不可
限定800部

装幀:井上明彦

 

■内容紹介/大平具彦「序 多元の海へ」より

・・・モダニズムあるいはアヴァンギャルドと呼ばれる文学芸術上の諸々の潮流においては、他者あるいは越境という問題群が、全体の流れの動因と方向を形づくっている。昨今、文化の複数性やクレオール思想がしきりと取り上げられるが、モダニズムの運動を少し内部まで掘り下げて検討してみると、二〇世紀前半から半ばにかけてヨーロッパを中心に北米、ラテンアメリカ、アジア、アラブ等の地域にまで世界的な規模で展開したモダニズム(アヴァンギャルド)諸潮流こそが、その源流となっていることに気がつかないわけにはゆかない。

というわけで、このモダニズムの流れを、「越境」という統合的テーマを軸に、現在の表象文化の諸状況と連関させつつ捉え直そうとしたのが本書である。「モダニズムの越境」という標題は、モダニズムに本来的に内在していた越境というテーマを浮彫りにするとともに、従来までのモダニズム研究を越境すること、またその呼称がはからずも示している通 り、結局のところは「近代」という枠組みに封印されてゆかざるを得なかったモダニズムそのものを越境することを含意している。

なお付言しておくと、本書は、ほぼ同一の執筆陣で一九九四年に刊行した『モダニズム研究』(モダニズム研究会、思潮社)の続篇である。前書がモダニズム運動を歴史的に検証してその全体像を描き出すことを主眼としたものとすれば、本書は、越境という共通 軸のもとにモダニズム運動の流れ全体を現在的な表象文化の視座から把握し直し、モダニズムを、そしてモダニズム研究を今後のトランスナショナルな多元文化へと繋げてゆく海図をデッサンすることをメインテーマとしている。・・・


I. 越境する想像力
Imagining Bordercrossing


第1巻表紙

装幀:井上明彦

 
第1巻目次

大平具彦:序 多元の海へ

第一章 越境者たちの言語実験

濱田 明:離脱の思想――ツァラにおける幻想空間の構想
長畑明利:話す苦痛/話さぬ苦痛――テレサ・ハク・キュン・チャの『ディクテ』を読む

第二章 西洋近代との格闘

奴田原睦明:オーセンティックなものへのヒジュラ・越境 ――タイイブ・サーレフの「北へ遷りゆく時」をめぐって
稲賀繁美:岡倉天心とインド ――越境する近代国民意識と汎アジア・イデオロギーの帰趨
エリス俊子:表象としての「亜細亜」――安西冬衛と北川冬彦の詩と植民地空間のモダニズム

第三章 サバイバルの記憶/ディアスポラの記憶

村田靖子:「ぼくは身分証明書をなくした」――未決のアイデンティティ現代イスラエル詩人イェフダ・アミハイ論
江田孝臣:モダニスト・ウィリアムズと過去の克服 ――『パタソン』における「誤った(滝の)言葉」とは何か?
小畑精和:カナダの小説に見るキッチュと越境 ――『グリーン・ゲーブルズのアン』と『束の間の幸福』
三宅昭良:叙事詩はカリブ海を観光するか ――デレック・ウォルコットの『オメロス』をめぐって
加藤光也:ヒーニーの変化について

解題:モダニズムの動線(西成彦+三宅昭良)


II. 権力/記憶
Power / Memory



第2巻表紙

装幀:井上明彦

 
第2巻目次  


第一章 記憶からいまへ

石川達夫:後期全体主義における言葉の抵抗力――クンデラとハヴェルをめぐって
安藤哲行:抑圧との闘い
鈴木将久:裏切りの政治学 ――中国モダニスト穆時英の選択
村田 宏:フェルナン・レジェと「赤い三〇年代」

第二章 個としての記憶

坂田幸子:越境を生きたスペイン女性作家たち ――ルシーア・サンチェス・サオルニルとマリア・テレサ・レオン
亀山郁夫:死と再生のカオスモス ――アンドレイ・プラトーノフ『土台穴』論
米川良夫:マリネッティの〈自由語〉を読む
三宅昭良:一線をこえた記憶 ――エズラ・パウンドにおける記憶としての〈アメリカ〉

第三章 記憶の偏差

田中 純:ファシズムの表象 ――ジュゼッペ・テラーニの建築をめぐって
西中村浩:ロシア革命と民衆の記憶
大石紀一郎:現代ドイツにおける「記憶の文化」について
和田忠彦:ファシズム下で無国籍者であること――サヴィーニオをめぐって

解題 果てしない〈裏切り〉のために(和田忠彦)


III. 表象からの越境
Beyond Representation


第3巻表紙

装幀:井上明彦

 
第3巻目次

第一章 超越の言語表象空間

大平具彦:ツァラ、デュシャン、アラカワ――二〇世紀と言語、空間、建築
木村榮一:ボルヘスと聖なるもの
鈴木雅雄:アンチ=ナルシスの鏡――シュルレアリスムと自己表象の解体

第二章 越境と遷移のポリティクス

西 成彦:フルブンと「死刑囚」の詩的言語使用
長畑明利:他者としての証言――アラキ・ヤスサダとポストモダン・ホークスの陥穽
五十殿利治:モダニズムの展示――巴里新興美術展をめぐって

第三章 越境的身体

井上明彦:柱と穴――《終わりなき柱》と大地の変容
野坂政司:即興あるいは準拠枠
高橋世織:宮沢賢治におけるインプロヴィゼーション――あるいは吃音的行為

解題:表象・制度・身体の越境(三宅昭良)

あとがき

 


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